氷塊 平野啓一郎

『新潮』2003.2月号

 面白かった。上段部と下段部を違った人から見たある一つの出来事(喫茶店で少年と30前後の女性が対面する)ことを個々、違ったことを考え、感じ、行動するという作品である。少年は高校に入り、本当の親が既に他界し、義理の親であると知らされ、本当の親への関心から喫茶店で見た自分に似ているある女を本当の親だと考え、声をかけようとする過程が描かれている。
 女性はフリンしていて、喫茶店でいつも待ち合わせをする。と、少年が私のことをいつも見ている。その少年は不倫相手の子どもと酷似している。今までは不倫とは面倒くさくない淡白な都合のよい関係であったがその少年が私に訴えかけるその目で私と相手の関係をいましめようとしている、と思うようになると罪悪感が芽生えてきたという変化が描かれた作品。


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